家族(民事)信託を活用すれば認知症後も暦年贈与は可能なのか?
皆さん、こんにちは。
最近多くの種類の野菜の収穫の時期なのか、お客様からいろんな野菜をもらうことがあります。特に、玉ねぎを多くいただくことがあり、おかげで毎日玉ねぎのスライスを食べています。なんとなく血液の流れが良くなって体調がいいような気がします。ありがたいことです。
さて、先日法律相談の場で次のような相談を受けましたので紹介いたします。
「相続対策のため親から生前贈与によって金銭を受け取っているのですが、親が認知症になった場合でも家族(民事)信託を利用していれば引き続き生前贈与による金銭を受け取ることは可能なのでしょうか?」
これはなかなか難しい相談でした。最終的には税金についての専門家である税理士に確認することを付言し、私見を交えてご説明いたします。
生前贈与が成立する要件とは?
生前贈与は相続税対策として非常に効果的です。
理由は単純明快、贈与する方の財産を減らすことができるからです。
ただし、そこには落とし穴がありあます。生前贈与によって財産を受け取った方(受贈者)に贈与税が課税される恐れがあります。
しかし、暦年課税制度によると年間110万円の基礎控除を利用することができますので1年間(毎年1月1日から12月31日まで)に受け取る金額が110万円以下である場合は贈与税が課税されません。
そして110万円を超えた場合に、その超えた金額に対して一定の割合による税金がかかるわけですね。
この1年間に110万円という条件を満たせば、複数年の間この基礎控除内でうまく贈与を行うことによって贈与税を回避しつつ、相続対策を行うことができるのです。
生前贈与が成立する要件とは?
では、贈与はどのような要式で成立する契約なのでしょうか。
民法第549条には次のような規定があります。
民法第549条「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」
贈与する人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)の意思の合致が必要であるということですね。
これは何を意味するのかと言うと、贈与者ないし受贈者が認知症など意思の表示ができなくなった場合は贈与できなくなるということです。
では、認知症など意思の表示ができなくなった場合に利用できる成年後見制度を利用したらいいのではないでしょうか?
そんな疑問を持たれた方もいるかもしれません。
1.成年後見制度を利用すると生前贈与を行うことができるのか?
残念ながら成年後見制度を利用すると生前贈与を行うことはできなくなります。
なぜなら、成年後見制度では積極的な財産管理が禁止されているからです。
この点について詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ。
2.家族(民事)信託は生前贈与を行うことができるのか?
そこで本題ですが、家族民事信託を利用することで生前贈与を行うことができるのでしょうか。
様々な考えがあるでしょうけれども、わたしはできないと考えています。
それは次のような理由からです。
1.受託者の忠実義務違反
家族(民事)信託では、委託者から財産を託されている受託者は、委託者の財産を受益者以外に給付することはできません。受託者は預かっている財産を受益者の利益のために管理・処分しなければならないため、受益者以外の者に財産を給付することは受託者の忠実義務(信託法第30条)違反になります。
したがって、安易に受託者の判断で受益者以外の者へ贈与を行うと、受託者は法的な責任を問われる恐れがあり、税務的にも税務当局から贈与自体を否定される可能性もあります。
ただし、使途を限定せずに財産を給付する「贈与」はできなくても、受託者が受益者の扶養家族のために、生活費等を定期的に給付するという扶養義務に基づく財産給付は、場合によって可能と思われます。
また、「受益者変更権」を行使することで、贈与に準じた生前の財産権の移動が可能になる手段もあります。
家族(民事)信託を使えば何もかもできるわけでは有りませんが、うまく活用すると今までの常識では出来なかった様な事が出来るのも事実です。一度お近くの専門家にお尋ねください。
以下、関連記事です。
実際に相続のことを考え始めた際に、相談にお越しになられた方から「成年後見と家族(民事)信託のどちらの制度が自分の家庭に合っているのか分かりにくい。」と仰られる方が多いので、こちらの制度の比較記事を参考に、ご判断の一助となれば幸いです。
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